地球温暖化対策やカーボンニュートラルを背景に、世界中で注目を集める電気自動車。どうしても今後の展開や将来性が気になります。EVの普及は鈍化しているともいわれますが、それはどうしてなのか、EVにはどのような問題や課題があるのか、知りたい方も多いでしょう。
この記事では、電気自動車の現状と今後の展開を予測しました。普及鈍化の原因や充電インフラの整備状況、バッテリー技術の進化、価格の動向、政府政策など関連した論点を網羅的に解説しています。電気自動車導入者や導入検討者の方にご一読いただけますと幸いです。
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電気自動車普及の現状分析
まずは、電気自動車普及の現状を確認しておきましょう。欧米、中国、日本、世界全体でのEVの普及状況をリサーチしました。
欧米の電気自動車(EV)の普及状況は?
ヨーロッパ(EU)におけるEVの普及率は順調に拡大しています。1年間の新車販売に占めるEVの割合が、2021年は9.1%で約88万台、2022年は12.1%で約112万台ときて、2023年のシェアは14.6%で約154万台を達成しました。(欧州自動車工業会調べ)
一方、アメリカは、2021年に3.2%で約49万台、2022年は5.8%で約81万台、2023年は7.6%で約119万台を達成し、こちらも徐々にではありますがシェアが伸びています。
中国の電気自動車(EV)の普及状況は?
中国では、欧米以上にEVが高いシェアをキープしています。中国における新車販売に占めるEVの割合は、2021年に11.1%(約292万台)、2022年は20.0%(約537万台)、2023年は22.2%で約669万台となりました。22年から23年のシェアの伸び率は微増ですが、EVの販売台数自体は大きく向上しています。(中国自動車工業協会調べ)
日本の電気自動車(EV)の普及状況は?
日本におけるEV市場は、欧米や中国と比べるとスケールダウンしますが、統計のうえでは着実に規模を拡大させつつあります。新車販売に占めるEVの割合は、2020年に0.59%で約1万5000台、2021年は0.88%で約2万1000台、2022年は1.42%で約3万2000台、2023年は1.66%で約4万4000台(普通乗用車)でした。
上記はEVのみの統計です。EVとPHEV(プラグインハイブリッド)を合わせた2023年の実績は、シェアが約3.63%、台数は約9万6000台となります。(日本自動車販売協会連合会調べ)
世界全体の電気自動車(EV)の普及状況は?
世界全体におけるEVのシェアは、EV・PHEVを合わせて2020年は4.2%(1000万台)、2021年は9%(1500万台)、2022年は14%(2500万台)と堅調な拡大を見せています。(国際エネルギー機関・IEA調べ)
成長著しいのは中国とEUです。世界の電気自動車市場は両地域が力強く牽引しているといえるでしょう。日本単独で見ると伸び悩んでいるように見えますが、世界全体では確実にスケールアップしています。
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電気自動車の普及鈍化の主な原因
世界のEV市場は、拡大していると言いましたが、普及の進捗状況は鈍化しています。走ってはいるものの、ペースダウンしてきたという状況です。ここでは、電気自動車における普及鈍化の現状と主な原因を探りました。
電気自動車の普及鈍化の現状
EVの普及は進んでいるものの、歩みは鈍化してきている。これは各国の共通した課題となっています。例えば、EUでは、2023年(10月-12月)の新車販売台数が前年比5.5%増となりましたが、EVの貢献度(寄与度)は大幅に縮小しました(欧州自動車工業会・ACEA)。同様に米国でも、PHVの販売は増えていますが、それに対してEVの売上高は低調です。
2024年の世界全体の見通しでも、EV市場の伸び率は2023年の29%から27.1%に低下すると見られています(調査会社カナリス)。では、普及鈍化の原因はどこにあるのでしょうか。
電気自動車の鈍化の原因
EVの普及鈍化の要因の一つには、補助金削減の影響が挙げられています。これは各国で状況が異なりますが、例えばドイツでは、本来はコロナ対策だった予算をEV購入補助金に転用したケースで、その転用が認められず、補助金が予定より1年早く終了してしまう事態を迎えています。調査会社カナリスによる2024年に世界のEV市場の伸びが鈍化する予測においても、補助金削減の影響を普及鈍化の要因に挙げています。
他にも、HV(ハイブリッド)やPHEV(プラグインハイブリッド)への需要増により、相対的にEVの普及鈍化が目立ってきたことや、充電インフラ不足の問題も普及を阻害する要因として有力です。充電インフラ不足は、特に日本において深刻な問題といえるでしょう。
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充電インフラの整備状況と課題
電気自動車の普及鈍化は、脆弱な充電インフラ整備が招いているという側面もあります。日本ではどのような状況でしょうか。
国内の公共充電器の整備状況
日本における充電インフラの整備状況は前進しています。2030年までに充電インフラを15万基設置するとしたグリーン成長戦略のスローガンのもと、2022年には2.9万基、2023年には約3万基、2024年には2023年の約3割増しとなる4万口台となりました。
EVへの需要拡大による自然増もありますが、政府による目標の設定と補助金の増額もインフラ拡大を後押ししたと見られています。とはいえ、国内の充電インフラ整備に関しては、以下のような問題もあります。
国内における充電インフラ整備の課題とは?
国内における充電インフラ整備に関しては、いくつかの課題があります。一つは「認知」です。充電インフラは着実に整備されていますが、その事が認知されていないという状況があります。また、充電インフラの空白地帯も少なくなく、今後は日本全国を網羅する「面的」なインフラ整備が必要です。
基数の偏在性も課題となっています。東京都心部の基数は多いですが、有料駐車場や自動車販売会社などスポットが限定されるほか、地方では依然として充電インフラが存在しない空白地域が多く残っています。全国的に偏りのないインフラ整備が必須です。
課題解消に向けた取り組み
充電インフラの課題解消に向けては、政府の取り組みと事業者の努力を同時に遂行することが大事です。政府の施策では、電気自動車の普及促進や、不採算箇所への資金的な支援、各種の規制緩和などがあります。一方、事業者の努力では、充電インフラのキャパシティの増強や、高効率充電器の開発(出力UP/口数増加)、コスト削減、更新ピークの平準化、その他があります。
効率性と利便性を備えた充電インフラをあまねく全国津々浦々に整備し、その事を広く周知徹底し認知度を向上することが大切です。
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バッテリー技術の進化と価格の動向
電気自動車の普及を促進する要因としては、バッテリー技術が大きな比重を占めています。EVのバッテリー技術はどのように進化してきたのか、価格の動向も含めて現状をまとめました。
鉛蓄電池からリチウムイオン電池へ~バッテリー技術の進化の歴史
電気自動車(EV)におけるバッテリー技術の歴史は、鉛蓄電池に端を発します。時は1891年。EV初のバッテリーとして注目されましたが、あまりにも重量が重く(車重の半分が電池重量)、航続距離も短かったため、爆発的な売れ行きを残すことはできませんでした。その後は、ニッケル水素電池がEVのバッテリーに採用されますが、同様にEVの普及拡大を推進するには至りませんでした。
EVが実用的な自動車となるのは、リチウムイオン電池が登場してからです。高いエネルギー密度を誇るうえ、小型化も可能なリチウムイオン電池は、1997年に日産が世界で初めて採用して以降、2009年7月には三菱自動車の「i-MiEV(アイ・ミーブ)」が駆動用バッテリーとして搭載するなど、一躍脚光を集め、EVバッテリー技術の主流となりました。
このように、鉛蓄電池からニッケル水素電池、リチウムイオン電池へとEVバッテリー技術の系譜は受け継がれ今日に至っています。基礎を築いたのは鉛蓄電池とリチウムイオン電池で、それを引き継いで電気自動車の本格的な普及を後押ししたのがリチウム電池です。
バッテリー価格の動向
EVバッテリーの価格は、EVにかかるコストの中で最も大きな比重を占めるヘビーな費目となっています。メーカーや車種によって異なりますが、EVバッテリーの価格帯のボリュームゾーンは4,000ドル(約60万円)から20,000ドル(約300万円)です。ガソリン車と比べると初期費用が大きくなりますが、技術の進歩により価格は徐々に下落しています。
とりわけ、リチウムイオンバッテリーの平均コストの下落は顕著です。2010年には1kWhあたり約1,000ドル(約150万円)だったものが、2020年にはkWhあたり約137ドル(約2万1千円)となりました。以降もさらに下落傾向が続いています。価格下落の要因には、技術の向上もありますが、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーなど安価な原材料を用いて高品質なバッテリーが作れるようになったことも影響しています。
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政府政策と補助金の影響
電気自動車における政府政策とは?
日本に限った話ではありませんが、電気自動車普及のカギを握っているのは、政府政策と補助金の存在です。日本では、2030年までに充電インフラを30万口、2035年には乗用車新車販売に占める電気自動車のシェアを100%とする国家目標を設定しています。それと同時に、電気自動車の車両購入費、充電インフラの設置費、両方で国や自治体が補助金を給付しています。これらの政策や補助金がEVの普及状況に与える影響は少なくありません。
電気自動車の普及を促進する国・自治体の補助金とは?
電気自動車における国・自治体の補助金は、一定の条件を満たした場合に、電気自動車の購入代を支援してもらえる公的な支援事業です。制度は年度ごと、車種ごとに内容や条件を改定しながら実施されています。他の予算と同様に、使えるお金には限りがあるため、年ごとの予算に応じて補助が行われます。
例えば、2024年度に実施される補助金の事例では、EVの上限額は85万円、軽EV、PHEVの上限額は55万円です。申請要件は、初度登録であることや、国が実施する他の補助金と重複しないことなどがあります。要件や金額は毎年変わるため、購入前に国や自治体の公式HPを確認することが大切です。
地方自治体の補助金は、自治体によって制度の有無や補助額、申請要件が異なります。そのため、補助金を活用したい方は、新車を登録する自治体の補助金制度について確認しておくことが必要です。補助金を活用する際、「国」と「国」の併用はできませんが、「国」と「自治体」の補助金の併用は可能なため、よりお得に購入したい方は、併用の可否についても確認しておきましょう。
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消費者の電気自動車に対する認識と誤解
日本において電気自動車が爆発的に浸透しない要因には、消費者側の誤った認識や誤解もあります。一例をあげると、「EVは、充電スタンドが少ないから、実用的じゃない」という指摘です。確かに、欧州や中国と比べると日本の充電スタンドは十分に整備されているとは言えません。しかし、充電スタンドは都市部を中心に増えてきており、今後も国の支援を受けながら増大していく見込みです。逆にガソリンスタンドは少しずつ減少しています。
また、「EVは車体価格が高すぎて、コスパが悪い」といった意見も有力です。現時点でEVの車体価格が高いのは事実ですが、補助金の活用で価格は抑えられるほか、航続距離も年々長くなってきており(500km〜の車種もある)、コストパフォーマンスも向上しています。電気自動車は発展途上にある分野です。現在はあらゆる面でガソリン車に劣っていても、追い付き追い越すのは時間の問題となっています。
技術の向上やサービス改善、国家政策や補助金給付の追い風もあり、電気自動車におけるさまざまな懸念点は時間の経過とともに解決される見通しです。
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石油価格変動が電気自動車市場に与える影響
石油といえばガソリン車をイメージしますが、実は石油価格の動向は電気自動車市場にも影響を与えています。この点についても考えておくことは大切です。
例えば、EVへの需要や関心は、ガソリン価格の動向に左右されています。エネルギー価格が上昇すると、めぐりめぐって電気料金も上昇し、EVの利便性が損なわれてしまう可能性が高いです。その一方、ガソリン価格が下落すると、ガソリン車の利便性が高まるため、相対的にEVに対するユーザーの関心度は下がります。ガソリン価格が下がることは、ガソリン車の方が効率がいいというイメージを与えるからです。
総合的に見ると、原油価格とガソリン価格が上昇すると、電気自動車(EV)への需要が高まる構図となっています。ガソリン価格が上がると、人々はより燃費のいい、かつクリーンな自動車を求めるインセンティブが働くからです。それに該当するのがEVあるいはPHEVということになります。
世界は不安定な情勢にあり、経済学的、地政学的その他さまざまなリスクを受けて、今後石油価格は上昇していく可能性があります。そうなると脱ガソリンへの気運が高まり、反対に電気自動車への需要が高まるでしょう。
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電気自動車の性能と利便性の向上策
電気自動車の普及拡大を図るためには、電気自動車の性能と利便性の向上が欠かせません。どのような施策が考えられるのか、ここでは「半導体開発」と「航続距離の伸長」という2つのポイントを取り上げます。
過酷な環境でも安定走行をするための半導体開発
電気自動車のあらゆる性能を左右するのは半導体にあります。半導体は電化製品でもおなじみですが、電気自動車においても、車体に備わる一切の部品(電子機器)を制御する重要な働きを担っています。もちろんEVの燃料ともいえる、電力を正常かつ安定的に供給するためにも必要です。
逆に言うと、この半導体の性能を高めていくことができれば、電気自動車の性能や安定性も今以上に高められることを意味しています。例えば、半導体の放熱性を向上することで、大電力を使用したダイナミックな走行や、過酷な環境下でもデリケートなバッテリーを保護しながら安定走行を継続することが可能です。熱を発しやすく、それによって性能が左右される電気自動車においては、半導体のクオリティが発展のカギを握っています。
EVの利便性を増す航続距離の伸長
EVの購入を思いとどまらせる要因の一つには、EVの航続距離の短さもあります。EVはただでさえ充電に時間がかかるうえ、ガソリン車と比べて航続距離が短いため、実用性や利便性が薄いと感じる方も多いかもしれません。
しかし逆に言うと、航続距離の伸長を実現すれば、電気自動車の普及拡大はしやすくなるでしょう。方法の一つは、半導体の小型軽量化です。EVに搭載する半導体を今以上に小さく軽くすることができれば、より大きなバッテリーを積むことができ、それによって性能が向上し航続距離を伸ばすことが可能になります。
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電気自動車普及に向けた新たな戦略
電気自動車の普及に向けては、政府自らが旗振り役となって長期的な戦略を打ち出しています。例えば、2021年に発表した『グリーン成長戦略』の中では、「2035年までに新車販売に占める電動車100%を実現する」と定められました。ここでいう電動車には、EVのほか、PHEV、HEV、FCEVも含まれます。
さらに同戦略のなかで政府は、「2030年までに充電インフラを30万口に伸ばす」とする目標を設定しました。電気自動車の普及と定着には、車体だけでなく、燃料(電力)を安定供給する充電インフラの整備が不可欠です。同目標が実現すれば、ガソリン車をしのぐ電気自動車の普及は確実なものとなるでしょう。
とはいえ、政府が示した電気自動車に関する新たな戦略に見られるのは、単に電気自動車という個別の製品を普及するための販売促進政策ではありません。むしろ、カーボンニュートラルを実現するために必要な新エネルギー車(NEV)を推し進めていく流れのなかで、その主翼にEVを定着させていこうとするものです。
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電気自動車の未来予測
現状では、ガソリン車から電気自動車への移行を実現する中間的な存在として、ハイブリッド車(HV)があります。ハイブリッド車は、内燃機関(ガソリン)とモーター(電気)の両刀使いです。ガソリン車としても電気自動車としても走行することができます。
そこで、一夜にしてガソリン車をすべて捨て、電気自動車に衣替えするのは難しいため、今後しばらくはハイブリッド車の存在感が高まるでしょう。それを経て、将来的な展望として電気自動車の100%普及が達成される公算が高いです。
いずれにしても、将来的には完全なる電気自動車の時代が到来します。排気ガスは地球温暖化や大気汚染に加えて、人間の健康にも害を与えることが心配されており、それを防ぐための世界的な取り組みと気運が高まっているからです。電気自動車を普及させれば、地球温暖化も大気汚染も健康被害も、あらゆる懸念を軽減できます。